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ドン・キホーテ

騎士道物語にのめり込んだあまり、現実と虚構の区別がつかなくなった狂気の騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャとその従士サンチョ・パンサが繰り広げる冒険の物語。

著者が作中で明らかにしている通り、本書は執筆当時スペインで流行していた騎士道物語のあまりの荒唐無稽さと、そんないい加減な物語に興じる民衆への批判を目的としている。そのため、本書はそれら流行作品の偉大なパロディとして書かれた。
ところがパロディが大流行すると、今度はその「続編」なるパクリ本が出版されてしまった。これに対して著者は、正統たる「後編」を執筆することで応酬する。「後編」は、主人公ドン・キホーテを描いた伝記物語「ドン・キホーテ」(と偽者の手による「続編」)が流布している、まさに当時の現実としてのスペインが舞台となる。
物語の中で当の物語を引き込んでしまっている自己言及的な構造を持つ、すぐれてアイロニカルで諧謔に富んだ小説。

前編では狂人ドン・キホーテの突飛さからおかしみを引き出しているが、後編では彼の理想と信念を貫く一途さを好意的な眼差しで描き、その狂人ぶりを見物して楽しむ人々をむしろ醒めた目で見つめている感がある。
おそらく前編では物語の真実性など気にしない理知的でない民衆をドン・キホーテに仮託して、後編ではドン・キホーテを弄ぶ人々を以って、己の興が得られれば良いという彼らの無節操を非難しているのであろう。長らく世間に認められず不遇を託ってきた清貧知識人・セルバンテスのルサンチマンの発露だが、同時に老いて痩せ細ったドン・キホーテに自身を重ねるという自嘲ぶりも見落とせない。著者の持つ敬虔なキリスト教徒としての性質や、前編と後編を通して著者の立ち位置が変化していること、などが感じられて興味深い。

「ドン・キホーテ」というタイトルが、機知に富んだ愛すべき狂人としての作中の主人公を指すだけでなく、皮肉ながらも愛嬌に満ちたものの代名詞になるのも頷ける。
元ネタとするに値する最強の独創性を有した偉大なるパロディから、私も何か拝借したくなった。

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書評 08-04-02 (水) 18:59

ドン・キホーテの旅 神に抗う遍歴の騎士

牛島信明 著  中公新書

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