- 2009-11-28 (土) 4:01
- レビュー
先週のことになるが、昨月公開された映画『仏陀再誕』を観てきた。
もうほとんどの映画館で公開終了しているようなので、ネタバレなど気にせずに書く。(そもそも、観に行こうと思う人はそれほど多くはないとは思うが・・・)
説明するまでもないかもしれないが、宗教法人幸福の科学の制作した映画であり、同総裁の大川隆法氏が監督総指揮をしている。
幸福の科学といえば、幸福実現党を結成し、先の衆議院選挙で全選挙区に候補を擁立したあの宗教団体である。マスコミの報道においては完全に黙殺された存在だったが、街の至る所にポスターが貼られ、街宣車や街頭演説もよく見かけるなど、(少なくとも都内では)かなりの存在感を放っていたように思う。不況や格差拡大、経済的豊かさに比して以上に高い自殺率などが社会問題として叫ばれる時世に、新興宗教の台頭を目の当たりすることは少なからぬ衝撃であった。生きる困難に直面した人々が新興宗教に縋る社会―私の印象に過ぎないかもしれないが―にどう向き合えば良いのか。先の衆院選で政権交代の陰で、私が強く関心を抱いたのはこの問題である。
今回、『仏陀再誕』を鑑賞したのは、こういう文脈においてであることをまず語っておく。
ストーリーを簡単にまとめるとこうだ。
主人公は新聞記者を目指して、新聞部で活動する美人女子高生・天河小夜子。彼女はある日突然、幽霊が見えるようになる。それがもとで、自殺した知り合いの新聞記者の幽霊に引き摺り込まれて死にそうになったところを、金髪のチャラそうな大学生の元カレ・海原勇気に助けられる。
仏教的教説で注意を喚起する勇気だったが、その忠告を聞こうとしない小夜子は、自分に突然身についた霊感の謎を探るべく、とある宗教団体の会合に出席する。だが、勇気の強引な誘導でその会合から抜け出す小夜子。事態が把握できない小夜子と、理由を説明しない勇気。そうしているうちに、その教団の教祖・荒井東作の呪いによって小夜子の弟が病に倒れる。小夜子と弟の父は、医師として全力を尽くすが原因が全く分からず絶望する。そこに現れ、弟の窮地を救ったのが、別の宗教団体を率いるイケメン青年・空野太陽。
あとは、人々を支配し服従させようとする荒井東作と、人々を救い教導しようとする空野太陽の熾烈な戦いが繰り広げられる。その戦いのスケールがすごくて、霊力や念力は序の口で、UFOの大軍やら、日本を飲み込む大津波(想念を送ることによる幻覚らしいが)やらまで出てくる。ヒロインはその美貌ゆえに、世間へのメッセンジャーとして活躍ないしは利用される。最終的には、真の仏陀を証明する闘争へと転換された後、戦いに勝利した空野太陽が仏陀の生まれ変わりとして君臨して世界に平和が訪れる、という結末。なお、小夜子は、信念を貫くことを学んだ勇気と再び結ばれ、荒井は敵だった自分を赦した空野に感服して牢獄で合掌する。
なお、空野太陽は他ならぬ大川隆法氏がモデルであり、荒井東作もまた実在の人物である某宗教団体の名誉会長をモデルにしていると思われる。
宗教団体の制作した映画なので、その主題は「当該団体の正当性の主張」であることは分かりきっている。
私の期待は、その正当性をどのような論理で示してくれるのかという点にあった。精緻な論理で神学論争を繰り広げるのか、現代思想を駆使した大胆で斬新な解釈を見せてくれるのか、ひそかに楽しみにしていたのだが・・・残念なことに善悪二元論に依拠した正当性の主張であり、信仰者の思考停止を促すものだった。
残念な点を箇条書きにしてみた。
- 正当性の根拠に「仏陀」という過去の権威を借りたこと(つまり論証を省いたこと)
- 権威付けにファンタジックな演出をしてしまったこと(現実的な説得力を持てていないこと)
- 敵役に統治権力や社会の腐敗をすえるのでなく、別の宗教団体を持ち出したこと(つまり我々の直面している問題群に立ち向かう力が見えないこと)
- しかも、最終的な主張が敵の言い分と同じく「オレの言葉を信じろ」だったこと(もはや説得力の持たせようがない)
一言でいえば、正当性の論証に失敗しているのだ。そもそもなぜ仏陀の生まれ変わりであることが正しいのかが分からないところからして問題だ。
果たしてこれで布教活動としての効果や信者の信仰心強化などの役割が果たせているのか疑問だった。この映画を観ただけで、この宗教団体が社会に広がりを見せていることについて考察してみるのは難しい。だが、信者の思考停止に基づく教導を企てている点を考えれば、警戒対象としていいかもしれない。
なお、幸福の科学の教理については作中ではあまり触れられてないので、ここでは特に議論しない。(宗教アレルギー者が多いのか、「宗教団体だから」という理由で、その言説を無定見に否定・忌避する人は少なくない。だが、我々は何らかの世界観を奉戴している以上、そのような態度はばかげている。私はそういう人がとても嫌いだ。)
さて、この作品はマジメに観る以外にも、随所に散りばめられたパロディの元ネタを見つけるというヲタク的楽しみ方もあるのだ。
ガンダム、幽☆遊☆白書、ドラゴンボール、エヴァンゲリオン、ダイの大冒険・・・
ヲタクとしては底辺の私(謙遜である)でも、このくらいは把握できたのでまだまだ仕込まれているネタはあるに違いない。何といっても声優陣が豪華なのもある。その点では一見の価値があるかもしれない。
公式サイト:仏陀再誕
宗教法人 幸福の科学 公式サイト
Comments (Close):7
- takaichang 09-11-28 (土) 9:11
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いいな~♪
友人からチケットをもらって観に行こうと想っていました。実際に、宗教法人で働いている方や信仰していらっしゃる方とお話しをしてから
映画を観てみると、また一つ違う視点から観れるかもしれないと想いました。僕は前回の映画を観たのだけど、
善悪二元論に依拠した正当性の主張
については、違和感をいだきました。基本的に、
善悪はなく、隙か嫌いだけ
という世界観で生きていきたい。想うとき、
また一つ、価値観を押し付けないようにしたい。
と想う今日このごろです。
素敵な思考の時間となりました。
ありがとう。
- 玄鵬 09-11-28 (土) 13:44
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信者の人の話を聞くのは面白いかもしれないけど、没入してしまっている可能性大だから聞いても仕方ないんだじゃないかという気もするね。
>僕は前回の映画を観たのだけど、
>善悪二元論に依拠した正当性の主張
>については、違和感をいだきましたこれは、映画における主張に違和感を持ったってことでいいよね?
そのような私の解釈に違和感をもったということではないよね?w善悪の彼岸に立つことですね。
ゆえに、価値観を押し付けない・・・まさにその通りだけれど、私が気をつけなければならないと思っているのは、それがポジティブな価値観だったときにチェック機能が働きにくいということ。「幸せに生きよう」という観念が苦しみを産みうることに盲目であるべきではない。
だから私は破壊者であり続けたいと思っているよ。 - 樹翳 09-11-28 (土) 17:10
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映画ですから大衆を相手にするわけで、結局わかりやすい善悪二元論にいきつくのかもしれませんね。
そしてすべてを鵜呑みにする相手のほうが断然に扱いやすいので思考停止を促すと。
観ていないのでなんともいえないところがありますが、最終的な主張をみる限りでは、
「生の感情を出すようでは俗人を動かす事はできても、我々には通じんな」
といったところでしょうか。>「宗教団体だから」という理由で、その言説を無定見に否定・忌避する人
これは私自身、そういう理由で忌避してきたところがあり、自分自身が情けなくなりました。
ただ、今回それに気づけたので、これから精進していこうと思います。 - 玄鵬 09-11-28 (土) 17:43
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社会に没入している人だけではなく、私のような人間さえもちょっくらその気にさせてしまうような仕掛けがあるのかと期待していたんですがねww
自分の放った言葉の矢が思わぬところに刺さって驚嘆ですw
やはり誤配的影響は面白いですね。ブログ更新さぼってましたが、ちょこちょこ書きますよ。 - hal 09-11-28 (土) 18:25
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知らなかった、そんなに面白そうな(w)映画だったのか!
スルーして失敗しました。 - まり 09-11-28 (土) 20:52
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こんばんは☆
久しぶりにお邪魔・拝読して、十二分に楽しませていただきました^^ありがとうございます。「正当性の論証に失敗している」・・・
玄鵬さんの 「チッ」という舌打ちと苦虫を噛み潰すようなお顔を勝手に想像し
不覚にも一人ウケてしまいました。w
もしかして友人とゲラゲラ笑えるような作品なのでしょうか。
関西の方なら、役名を聞いた時点で100種類くらいのノリツッコミができそうな感じです。
不謹慎でごめんなさい。レビューから感じた、私の純粋な感想です。地方在住の私の周辺では、選挙期間中も同党の街宣車をたまに見かけた程度で
存在感はあまり感じられませんでした。知名度は確実に上がりましたけどね。新興宗教も長く続けば新興じゃなくなるわけで、
映画でPRするより、地道に教義を分かりやすく説いた方が明らかに信者は増えそうですが・・・
某教との違い、現代社会を生きる心のありかた等々をハッキリと。ただ「新興」宗教を広めるには、PRのみならず教義にもパンチをきかせる必要があるのでしょうね。
既に古くから根付いている宗教・宗派は、特別な興味がなければ「実家が・・宗だから」等の理由で
子孫に受け継がれていくでしょうから・・・。玄鵬さんが新興宗教を立ち上げて教祖様になられる可能性は今後あるのでしょうか。
- 玄鵬 09-11-28 (土) 23:53
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>hal氏
2012なんか目じゃないくらいの大注目映画ですよ。
DVDが出たらレンタルして観て下さい。そもそも出るのか。>まりさん
お久しぶりです。いやぁ、私はいったいどんな人物像になっているんでしょうw 会ったことがある人が自分をどう見ているのかは想像つきますが、相対したことがない人の自分像って興味深いです。
割と笑えます。ただ、表面的なツッコミをするより、ヲタク的に元ネタ探しをして笑う方が何倍も楽める作品だと思います。
宗教は人々の救済など崇高な何かを目的とするのであって、広めることも長く存続することもその手段に過ぎません。映画制作は、その戦略的手段としてはありうる手の一つでしょうから、成否は別としてそのこと自体には反対はありません。
私が宗教を興して、人々を教導することはありません。私は組織化・統合化を破壊し続けていくでしょう。